「え?」


「俺、ちゃんとお前のこと、おぼえてるかな」



 ウォークマンをいじるチカの顔は、やけに真剣で。とおい未来のことを、考えているようだった。


「軽く世界征服って何年かかんだよ。日向の顔おぼえてる自信ねえわ」


 …何を、言ってるんだ。


「チカちゃんがあたしのこと忘れるわけないじゃん」


 あたしもチカちゃんを、忘れるわけない。忘れたとしても、何年後かにもチカは牛乳をチュウチュウいわせてるに違いない。目立つ。絶対わかる。 



「チカも世界征服してくれるの?」

「…卒業記念に」



 卒業式、まだ先だけど。
 そう言ってチカちゃんは照れくさそうにそっぽを向いた。やさしいね、チカちゃん。




「……あ、本鈴」




 授業開始のチャイムでまた、学校と言う名のちいさな社会に引きもどされる。

 次の時間は、数学だ。その次が、現国。チカの天敵、武井先生の時間。

 くりかえされる、時間わり。