『私、お父様に頼んでみたけど、ダメだったわ』
誰にも見つからぬよう、谷の端の木の下で、エルミナは言った。
アレクの肩に、寄りかかりながら。
『なにを?』
『あの剣のことよ。
あなた、あれを持っていけば、功績が認められるのでしょう?』
『ああ……あれはもう、いいよ。
王もあきらめられたみたいだし。
伝説の剣はほしいけど、くれないなら自分たちで強い武器を作った方が早い』
『そうして、また大気を汚すのね』
エルミナは途端に不機嫌な顔をした。
金属を溶かし、武器を作れば、大気は汚れる。
昔より高性能なフィルターも作られているが、汚染物質の多様化についていけていないのが現状だ。
『……ごめん』
『いいのよ。ではやはり、あの剣を持ち帰った方がいいんじゃなくて?』
『いいよ、そんな……君がお父上のお怒りに触れるようなことをしなくても。
俺は、君さえいてくれれば、功績なんか上げられなくてもかまわない』
アレクは、エルミナにキスをする。
エルミナもそれにこたえ、彼の首に両手をまわした。
……森の木々たちが、精霊族の王の監視役を請け負っていたのを、彼らは知らなかった。
ある夜。
いつものように、非番の日にエルミナに会いに行ったアレクは、捕らえられた。
精霊族の王の親衛隊によって。



