『あら、人間さん。

もうお帰り?』


アレクは思わず顔を上げる。

そこには優しく微笑む彼女が……まだ裸体のまま、こちらを向いていた。


アレクはうなずき、慌ててうつむく。


精霊はそもそも、自然のままの状態でいるのを好むもの。

そして、人間の男など、虫けらほどにも思っていない。

だから恥らう必要もないのだと、アレクは理解していた。


『おおせの通りです。

あっさり断られてしまいましたので、帰ります』


『まあ。かわいそう。

お父様ったら、意地悪ね。

人間の剣なのだから、人間に返してあげたらいいのに』


彼女は泉の中心を見て、ため息をつく。


(お父様、ということは……)


彼女は、精霊族の王の娘。
精霊族の姫だ。


アレクは畏れ、一礼してその場を立ち去ろうとした。

だけど、またもや彼女に止められてしまう。


『ねえ、待って、人間さん』


アレクは足を止めてしまった。

そして息を飲む。


あろうことか、彼女が水から上がり、ぺたぺたと草を踏んでこちらに近づいてくる音が、背後から聞こえたから。


『顔を見せて』


「えあ、その、いえ、姫様に見せられるような顔はしておりませんので」


『面白いひとね。

妖精たちが言ってるわ。あなたは素敵なひとだって』


妖精?

ふと見上げたアレクの頭上を、球体の光がふわふわ飛んでいた。