「ニーナ、早く」
ラスにうながされ、仁菜はハッと腐の世界から現実に引き戻される。
横を見ると、アレクとカミーユも準備万端。
(こっちのペアも、これはこれで……)
「おいニーナ。さっさとしろ!」
(……ちっ。ちょっとくらい現実逃避させてくれてもいいのに)
仁菜はしぶしぶ、颯の後ろにうんしょうんしょと乗った。
颯がハンドルに手をかけると、お尻の下からバイクが起動する振動が伝わってくる。
「……なにしてんだよ」
「ん?」
「ちゃんとつかまれよ」
颯が仁菜を振り返る。
「つかまってますが……」
仁菜は両手を座席につけていた。
それでじゅうぶんだと思ったから。
しかし……。
「アホ!俺様にくっついてろ!バカ王子みたいにしなきゃ、振り落とされるぞ?」
……くっついてろ?
ラスみたいに?
振り落とされる……?
黙って首をかしげる仁菜。
その細い手首を、颯は乱暴に握った。
そして導かれたのは、颯の引き締まった腹筋のあたり。
「手はここ!二人乗りの常識だろうが!」
「……!!」
ぐい、と引っ張られ、仁菜はコアラみたいに颯の背中にはりついてしまった。
颯の広い背中……についた、『喧嘩上等』の刺繍に顔が当たる。



