「ねえ、仁菜。
あの……聞きたいことがあるんだけど」


授業が終わって、さあ帰ろうと思ったところに、友人の由紀が声をかけてきた。


「ん?なに?」

「あ、あのね、困ってることとか、ない?」


由紀は遠慮がちにたずねる。


「お小遣いが少ないのが悩みだけど……なんで?」

「えっと……実はね、仁菜が工業の男の子と歩いていたのを見たって言う人がいて」


工業というのは、近くにある工業高校……つまり、颯の高校の通称だ。


「それで?」

「あの……無理やり、付き合わされてるんじゃないかと思って……あたし、心配で」


ああなるほど、と仁菜は納得した。


颯が通っている高校は、はっきり言えばガラが悪い。


ヤンキーが多いので、工業の制服=ヤンキーと思われても、地元では仕方がないのだ。


由紀は心の底から仁菜を心配しているようで、少し申し訳なくなる。


「ごめんね、由紀。
内緒にしてたけど、あたし……」


その続きを遮るように、まだ教室に残っていた女子グループの声が聞こえてきた。


仁菜はあまり話したことのないグループの子たちだ。


「すごいよね、水沢さんって」

「入学早々行方不明になったのに、期末では学年10位に入ったんだって」