守りたい、純真無垢な初恋。
それを踏みにじろうとする、欲望という名の落とし穴。
キスがしたい。触れてみたい。
そんな自分に気づいたとき、颯は自分が汚れた大人になっていくことへの嫌悪を感じた。
(……ダメだ。帰ろう)
颯はそっと、仁菜の手を離す。
すると、仁菜の唇が震えた。
『……や、て、にいちゃん……?』
どきりとした。
起こしてしまったのかと思った。
けれど、仁菜はそのまますうすうと寝息を立て始める。
『……誰が兄ちゃんだ、バカ……』
どうしようもない愛しさが、颯の中にこみ上げる。
もう少し待っていて。
大人になったらきっと、俺たちはもう少しだけ、自由になれる。
そうしたら、俺がお前をいつでも連れ出せるようにするから。
いつも一緒にいられるように、がんばるから。
だからどうか、それまで、誰のものにもならないで。
颯は、おそるおそる、だけど見えない磁力に引き寄せられるように確実に、仁菜に近づいた。
そして、自らの震える唇を、仁菜の赤いそれに、そっと触れさせた。



