仁菜を支えてその部屋に運んでベッドに横たわらせると、布団をかけて手をにぎった。
『兄ちゃん』
『なんだよ』
『制服、かっこいいね……』
『そ、そっか?』
『うん……』
もっと話をしたそうだったけれど、ちいさな仁菜の手はすぐに、颯の手をしっかりにぎったまま、眠りについてしまった。
『アホか……』
さみしいならさみしいって、母親に言えば良かったのに。
置いていく方も置いていく方だけど、きっと平気な顔をしてみせたのは仁菜だ。
どこか強情でいじっぱりな彼女は、きっと「仕事行けば?」なんて言ってしまったんだろう。
『俺に素直でも、家族に意地はってちゃ、意味ねーだろ……』
颯は仁菜の頬を、そっとなでる。
まだ、相当熱い。
長いまつげが、苦しげにゆらゆらと揺れた。
それを見ると、颯の胸も苦しくなる。
自分は中学生になったけれどまだまだ無力で、未熟で、仁菜を守る手段が見当たらない。
もどかしくて、どうにかなりそうだった。
好きな女の子が苦しんでいても、颯には何もできない。
それどころか……。
(俺はアホか……)
訪れた思春期は真っ盛りで、気づけば仁菜のいつもより赤い唇ばかり見てしまう。



