そのとき、颯の耳に小さな声が聞こえた。
『はやてにいちゃん……?』
ハッと振り返ると、そこには赤い顔をして、パジャマにカーディガンを羽織った仁菜が立っていた。
玄関のドアを開け、こちらを見つめている。
『えへへ……熱、出しちゃったんだぁ』
ちょんまげ状にしばった前髪の下のおでこの冷却シートをさして、仁菜はふにゃりと笑う。
『マジかよ。寝てろよ』
『うん……でも、兄ちゃんがきてくれたような気がして』
『…………』
『兄ちゃん……もう帰っちゃうの?』
潤んだ瞳で、仁菜は颯を見つめた。
駐車場を見るが、車がない。
『おばさんは?』
聞くと、仁菜は今にも泣きだしそうな顔をしてしまった。
『パート休めないって言って、行っちゃった……』
頼りなげに言うと、うつむく。
颯はそんな仁菜を放っておけず、その玄関に近づく。
ドアに手をかけると、仁菜の体がふらりと揺れた。
『あぶね……っ』
とっさに支えると、仁菜は素直に颯によりかかる。
その体は、信じられないくらい熱かった。
『お前、今何度あるんだよ!?』
『え……わかんな……』
『あーもう。いいから寝ろ!』



