仁菜の母は、わあわあと泣き崩れてしまった。
その場にひざをつき、顔を両手で覆う。
そこへ、もうひとつの人影が土手からやってきた。
「加奈子!大丈夫か?」
「おじさん……!」
「キミは……!」
仁菜の母に駆け寄ったのは、仁菜の父だった。
娘の非常事態に居ても立っても居られず、単身赴任先から戻ってきているのだろう。
「櫻井さんちの颯くん、だったっけ?
すまないね、加奈子は少し参っていて……」
そういう父の姿は、完全な部屋着だった。
仁菜がいなくなってしまって精神が不安定になってしまった母親が、いつの間にかいなくなってしまったのを慌てて探しにきたという風情だ。
二人とも、疲れ切った顔をしていた。
「あなた!
この子がきっと、仁菜にひどいことをしたのよ!
この子は昔も……!」
仁菜の母は、泣きながら颯をにらみ、遠慮なく指をさす。
「やめろ!落ち着け、加奈子!
目撃者は、二人とも誤って川に落ちてしまったように見えたと言ってただろう!?」
「でも、でも、じゃあどうして、この子は帰ってきて、仁菜は帰って来ないの……!?」
二人の言い合いを、颯は黙って見守るしかできない。



