颯が、日本側の境界の川へたどり着くと、そこには警察のはったロープと立入禁止の看板があった。
川辺がすべて、立入禁止になっているらしい。
「あれ……」
それなのに、颯はロープの中に人影を見つけた。
その人影は一人で、川面をのぞきこんでいる。
あの日の、仁菜のように。
颯は急いでロープをくぐり、その人影に近づく。
その心臓は、緊張で高鳴り始めた。
「おばさん」
意を決して声をかけると、人影が振り向く。
うつろだった瞳に焦点があったとき、彼女はきっと颯をにらみつけた。
「……あなた……!」
「おばさん、何やってるんですか」
颯は慣れない敬語で、その人に話しかけた。
それは仁菜の母親だった。
しばらく見ないうちに、シワが増えて頬がたるんだ気がする。
おまけに目の下には、真っ黒なクマがくっきりと浮かんでいた。
「何やってるって、仁菜を探しているに決まってるじゃない!」
仁菜の母は、今にもつかみかかりそうな勢いで怒鳴る。
「あなた、あの日仁菜と一緒にいたのよね?
目撃者がいるもの。もう逃げられないわよ」
「は?えっと……」
「あなたが仁菜をどこかに隠したんでしょ!?
一体どこへやったの?早くあの子を返してよ!」



