白いジャージに、黒い猫ちゃんサンダルの颯は、病院を出て、走る。
財布を持っていないから、バスには乗れない。
病院に戻って、両親に車で送っていってもらおうと思ったけど、彼らは突然逃亡した息子の退院手続きや、事情聴取に来ると言っていた警察の対応に追われているだろう。
だから、急いでいる颯をそのまま行かせてくれたのだ。
(マジごめん。帰ったら親孝行するからな!)
病院の駐車場にパトカーがあるのを横目で見ながら、颯は実家へと走る。
早く。早く。
(ニーナをひとりっきりにさせておくわけにはいかねえ!)
厳密には、ひとりじゃないけど。
大勢仲間がいるし、ラスたちはニーナを傷つけないように、細心の注意を払ってくれるだろう。
(だから、よけいに危険じゃねーか……!)
あのときキスをしてみて思ったけど、仁菜は男に対する警戒心が薄い。
それに、優しいけど、言い換えればお人よしだ。
強引に迫られれば、よほどイヤでないかぎり流されてしまう性格だから、心配でしょうがない。
(……ちょっと、待てよ。
ということは……)
泣きながら拒まれた自分は、よっぽど嫌われているのだろうか。
そう思うと足が止まってしまいそうだった。



