全国的に有名な猫のキャラクターがついた、足の裏に当たる部分がでこぼこの、健康サンダル。
色は黒く、ふちは金色。
ヤンキーが好きな配色だ。しかし。
「なんでキ○ィちゃんなんだよ!」
総長ともあろうものが、この可愛い猫のサンダルをはけと言うのか。
レディースならともかく。
「え、どうせ入院中のスリッパなんか、帰ったら使わないでしょ。
退院したらあたしがもらおうと思って」
「~~~~!
まあいいや、サンキュー!」
颯は切り替え、来ていたものを脱ぎ捨てる。
看護師が目を覆ったすきに、ささっと着替えを済ませると、裸足に猫スリッパを履き、駆け出した!
「ちょっと颯、どこ行くの?」
「あぁ?帰ったら説明するわ!」
「いつ帰るんだ?」
「えっと……それはわかんねーけど、絶対帰ってくる!
俺のバイクは?」
「家だけど」
「サンキュー!」
颯はその名のごとく、風のように病院から抜け出してしまった。
「ああっ、なんで止めてくれないんですか!?」
看護師に言われ、父はのんびり言う。
「え、帰ってくるって言うし、元気だし、いいんじゃね?
そりゃ心配だけどさ、親が子を信じないでどうするの」
……この親にして、この子あり。
看護師は呆れて立ち尽くした。



