「事件に巻き込まれたのはあんたよね?

背中の傷、誰にやられたのっ?」


母に聞かれ、ハッとした。


自分の背中を触ると、たしかに傷がある。


(本当だった……あれは夢じゃなかったんだ)


そうじゃなければ、背中にカフカがつけた傷があるわけがない。


そう、あのイケメン魔族にやられて、自分は谷底へ落ちたのだ。


(まさかあのまま、境界の川に落ちて……)


流され、来た道を帰るように、元の世界へ来てしまったのか。


(シリウスの契約のタトゥーは?)


目的を達成するまで、境界の川にも拒絶される効果を持っていたタトゥーは、ほとんど見えない。


(そういえば、シリウス……最後に見たとき、『石』を持っていなかった)


そろいの腕輪に埋められた、青い石。


あれがないことに気づいたのは、シリウスがいつものムチではなく、銃を使った瞬間だった。


(もしかして、石を壊されたのか……?)


だから、呪文の効力がなくなったのかもしれない。


と、すると。


「やっべ……!」


やっぱり自分だけ、帰ってきてしまったのだ。


一緒に帰りたいと仁菜にあれだけカッコつけて言っておきながら、あっさり自分だけ帰ってきてしまった。