「颯……」


どこかにつかまっていないだろうかと、仁菜は地の裂け目にのりだす。


さっきは近づくだけで怖かったのに、今は全く気にならない。


「颯!颯!返事してよぉぉぉぉっ!」


どうして?


仁菜の目から、涙があふれた。


ひどいことを言った。

キスを拒んだ。

せっかくの颯の気持ちを……打ち砕いた。


それなのにどうして、盾になったりしたの?


あたしを守ってくれたの?


「やだっ、やだよ、こんなの……っ」


おバカでもいい。


ダサくてもいい。


だから。


「颯ぇぇぇぇぇっ!

またあたしを置いて行かないでよぉぉぉぉっ!」


身を乗り出す仁菜を、アレクが力ずくで止める。


残された仲間たちは、地の裂け目をのぞきこむ。


しかし谷間には霧がかかっていて、その下がどうなっているか、全く見えなかった。