ヤンキー君と異世界に行く。【完】



カミーユが行ってしまった途端、別の魔獣が仁菜の元へ突進してきた。


「うわあああっ、来ないでぇぇぇっ!!」


仁菜が懇願すると、精霊の盾が、魔獣の体を光で跳ね返した。


ドーム状になったそれは、たしかに怪我人を守る、重要な役目をしている。


(だけど、こうして逃げているだけじゃ……!)


跳ね返された魔獣はしばらくあおむけになってバタバタしていたが、なんとか反動をつけて起き上がる。


役に立てていないような気がして、仁菜は余計に悔しくなった。


ラスは、魔獣の背中をひらりひらりと飛び移り、次々にそれらを処理していく。


アレクは怪力で、戦闘はもちろん、魔獣の下敷きになっている人間を助けられる唯一の人だ。


カミーユは混乱しかける砂漠の民に声をかけ、的確な指示を出している。


そして。


おバカだと思っていた颯ですら、敵に真正面から向かっている。


もともと剣道をやっていたわけでもない。


アレクに聞いたら、あの身のこなしは本人のセンスと、王の剣の秘めたる力のおかげだろうと言っていた。


でもそれだけで、あんなに強いまなざしができる?


(颯……)


全員の無事を祈るしかできない自分を殴りたくなったとき、ある魔獣の背中から声がした。