「って……」
平手を命中させられた颯は、頬を押さえていた。
「な…っ、なにするのっ!?」
「なにって……」
「なんで、なんでいきなりこんなことするのっ?」
カラカラの喉を、かすれた声が出ていった。
目からは、涙がぼろぼろとこぼれた。
突然すぎる告白に、心が追い付かない。
「だから、言ってんじゃねえか、好きだって!」
颯の方でも、何かが弾けたみたいに感じた。
こんなふうに自分に対して感情的になる颯を初めて見た仁菜は、戸惑うしかできない。
「なんで……?なんでいまさら……」
どうして今さら、そんなこと言うの?
「……お前と帰りたいからだよ。
全部終わったら、お前と一緒に帰りたいから……」
「……?」
「お前はここにずっと残るつもりなのか?
異世界の人間と結婚して、もう帰らないつもりなのか?」
切実そうに、颯は言う。
「異世界の人間なんかに、お前をとられたくねえんだよ……!」
颯は力任せに、仁菜の後ろの壁を殴りつけた。
そうだ、と仁菜は気づく。
(あたしが異世界の人に恋をして、結婚してしまえば……。
颯が帰ってしまったら、もう二度と会えないかもしれない)
ふと横にあった颯の腕を見る。
すると、そこにあったはずの契約のタトゥーが消えかけていることにきづいた。
シリウスがつけたタトゥーが、彼の力が弱まると同時に、効力を失いかけている。
仁菜はそれに、なんとなく気づいてしまった。



