「だから、川に飛び込もうとしたの。
それがまさか境界の川で、楔の聖剣が抜ける瞬間だなんて、思うわけなくて……」
「…………」
「偶然通りかかった颯が助けてくれようとしたの。
結局流されちゃったけど……」
ラスは黙って、仁菜の言葉を聞いていた。
いつの間にか、ラスの手が仁菜の手を優しく握り返していた。
「ラスは、そんな弱くない。強くて、素敵なひとだと思う。
だけどね、あまり自分を追い詰めないでほしいの」
「……強くなんてないよ……」
「なら、なおさら。
ねえ、ラス。あたしはあなたの国民じゃない。
泣いているところを見せたって、ちっともかっこ悪いと思わないよ?
だから……すっごく頼りないとは思うけど、つらいときは、あたしに言ってね」
できることは、きっとすごく少ないけれど。
自分がつらかったとき、話を聞いてくれるひとがひとりでもいたら、きっと違ったと思う。
それに気づかせてくれたのは、エルミナだった。
(それに、シリウスさんが、あたしに「頼む」って言ったんだもの)
それは、知らず知らずのうちに、仁菜の心を支えていた。
ラスを一番理解しているシリウスに、彼を託された。
ということは、自分だって、そんなに捨てたものじゃないはず。
そう思えるようになっていた。



