『シリウス、あなたをノアの参謀に推薦しようと思うの』


昨夜王妃の部屋に呼ばれた自分に言われたのは、そんな一言だった。


『なぜですか』


今までラス付の参謀だったシリウスに、王妃が声をかけたことはなかった。


王族が全員そろう行事や儀式でもそれは当然で、いきなり昇進の話を持ってこられても、たやすくは信じられない。


そんなシリウスの表情を読み取り、王妃は柔らかく笑って言う。


その顔は、憎らしいくらいラスに似ていた。


『あなたが相応しいと思うからよ。

聞けば、精霊の谷で伝説の剣を手に入れて、異世界の勇者と運命の花嫁まで手なずけたようじゃない。

さらには、砂漠の民たちまで。

それをすべて、ノアに譲ってくれないかしら?』


大事にされすぎ、王族としての言葉使いも忘れた女。


よくも恥ずかしげもなく、そんなことが言えたものだ。


シリウスは呆れた。


『それはラス様の人格のおかげです』


正しくは、伝説の剣が手に入ったのはアレクと仁菜のおかげだ。


けれどそこは黙っておいた。


王妃は無表情なシリウスが気に入らないらしく、笑顔をなくす。