「ニーナ、無茶を言わないでくれ。
王妃様にはそう簡単に会えない」
「でも……」
「とにかく、出発の準備をしよう。
時間がない」
アレクはそう言うと、仁菜の肩をたたき、自分も部屋の外へ出ていってしまった。
どうして?そんなことでいいわけがない。
(シリウスさんの真意を知らないまま、あたしたちだけで行っちゃだめだ)
仁菜はラスの肩を揺さぶる。
「ねえ、あたしたちだけでもシリウスさんのところに行ってみよう。
部屋に入れてくれなくても、話はできるかもしれないでしょ?」
けれど、ラスは首を横にふる。
「ごめん……ちょっと俺、まだ混乱してて……。
ほんと、情けないんだけど……」
「…………」
ラスはとんでもないダメージを受けたようで、いつものみずみずしいバラのような彼は、しゅんと枯れてしまっていた。
「あれが、全部本当のことじゃなくても……シリウスが俺のために自分の時間を犠牲にしてきたってことは本当だと思ってさ……。
なんか、申し訳なくて……」
ラスはまた泣きそうな声になってしまった。
「そんな……そんなことないよ……」
「本当なら、俺やクソ兄貴たちより頭が良くて、望めばなんだってできたはずなのに。
俺が、シリウスの道を奪った……」
「そんなことないったら」
「俺が、シリウスを不幸にしていたのかもしれない……!」
悲鳴のような声をあげたラスを、仁菜は抱きしめるしかできなかった。



