「あれ、2万円もするんだ……」
「刺繍代も合わせると4万」
「4……っ」
あの金ぴかの『喧嘩上等』が2万で、あわせて4万!?
「ぼったくりじゃん」
「アホか、あの刺繍はな、ミシンじゃねえんだぞ。手縫いなんだぞ。
ヤンキーならだれもが憧れる職人に刺してもらったんだからな」
一般人は誰も知らないよ……。
こんなときまでバカな颯に、さっきとは違うため息が出た。
けれど。
「早くしろよ、のろま」
颯がさっと自分の手をにぎるから、不意にドキっとしてしまう。
(さっきラスに手をつながれたときは、なんともなかったのに……)
というか、それどころじゃなかった。
なのに今は、颯のバイクのハンドルの握りすぎで固くなった手のひらに、ドキドキしてる。
颯はいつもみたいに茶化すわけでもなく、黙ってアレクたちのあとをついていく。
(もしかして、昨日気まずくなっちゃったのは、あたしだけじゃないの?)
そういえば昨日、泣きながら病室を出たんだった。
颯は気づいていたのかもしれない。仁菜を傷つけたことを。
だからわざと緊張感のないバカな発言をして、いつもの自分たちに戻ろうとしたのかもしれない。
(なんて……このおバカがそこまで考えてるわけないか)
仁菜は思い直して、前を見つめなおした。



