ケータイ小説に出てくるみたいな、茶髪にピアスのイケメンヤンキーなんか、実際にはいない。


ううん、全国探せばいるかもしれないけど、うちの田舎にはいない!


イケメンで頭がいいなら、ヤンキーになって群れなくたって、何も怖くない。


顔も頭も良くなくて、他にも長所がないのを自分でわかっていて、ものすごく劣等感がある人間。


そういう人たちが外見を強く見せて、同じような寂しい仲間と群れる。それがヤンキー。


そんなダサい生き物に、自分のヒーローが堕ちてしまったと聞いたとき、それはそれはショックだった仁菜。


「そうだね……忘れてたよ」


でも絶望のふちにいた仁菜に手を差し伸べてくれたのは、ダサヤンキーな颯。


(こっちに来てから、昔と同じように話してくれてたじゃない)


「ニーナは俺のだ」とか、「俺はお前を守りたい」とか、ちょっと気のあるようなそぶりまでしてさ。バカのくせに。


バカのくせに。バカのくせに。


そうやっていつも颯をバカにしてきたのに。


(なんであたしはこんなに傷ついてるの?)


他人だって言われた。


ほんとのことだ。


本当のことだから、優しい嘘よりずっと、痛い……。


「あたし、カミーユさん呼んでくるから」


いすから立ち上がり、仁菜は駆け足で病室を出ていく。


ドアを閉める瞬間に見えた颯の姿は、涙でぼやけていた。