まさか、と一行は息を飲む。
『その子は、「女神」の実験台になって、死んでしもうた……』
長老が言うには……
無理やりに遺伝子を操作され、人工の子宮に着床した受精卵は、人の姿にならなかった。
ぽかりといくつもの空洞ができた肉の塊を、技術者たちは廃棄処分してしまった。
『生きていたら、ちゃんと妻の腹で育っていたら、幸せになれたかもしれないのに……』
(ああ、だから……)
仁菜は長老に同情してしまう。
(だから、あんなにカミーユさんを敵視して……)
カミーユは何も言わず……いや何も言えないようで、黙ってうつむいていた。
『しかし、それはもうすぎたことです』
長老の孫が、きっぱりと言った。
『怪我人を救ってくださったのはあなただ。
あなたがいなければ、もっと多くの者が死んでいただろう。
ありがとう……ほんとうに、ありがとう』
『え、あ……いえ、こちらこそ……』
孫はカミーユに深く頭を下げる。
カミーユは責められたり褒められたりで、どうリアクションしていいのか困っているようだった。
(でも、よかった……)
長老は何も言わないけど、きっとカミーユ自身には感謝しているんだろう。
ひっそりとうなずいていた。



