(そうじゃないよ)
パーカーを貸してくれたことじゃない。
寒い思いをさせて悪いとは思ってるけど。
(せっかく迎えに来てくれたのにごめんね)
ほんとに、嬉しかったの。
ほんとはもっと、一緒にいたかったの。
『おい、なに泣いてんの?
そんなに痛いもんなの?』
『ううん、大丈夫……』
このときあたしは、怖かったんだ。
仁菜は思う。
自分の体が、母親と同じ「女」という生き物になっていくのが怖かった。
大人になるのが、怖かった。
それはシンデレラの魔法が解けてしまうような、悲しい予感。
大人になったら、颯と一緒にいられなくなることが、どこかでわかってたんだ。
ねえ、颯。
あたしたちがずっとあのままだったら。
子供のまま、時を止めてしまっていたら。
あたしたちは今も、手をつないでいられた?



