『今日は、俺んちもみんな仕事。同じだな』


颯の家は、小さな車の整備工場だ。


スーパーへ行くと、店員さんに「あらお兄ちゃん、妹さんと手をつないで、えらいわね」なんて言われた。


どこが兄妹なのよ。全然似てないじゃない。


仁菜はそう思ったけど、颯は全然平気な顔をしていた。


颯は、わかっていたから。


たとえ小学生だろうと、6年生と5年生。


二人きりで連れ立って歩いているというのが何かの拍子でバレたら、仁菜の母親に何て言われるかわからなかったこと。


まだ2年生の頃、遊び疲れて眠ってしまった仁菜を、颯はおんぶして家まで運んでくれた。


そうしたら母親は、『こんなになるまで連れまわさないでちょうだい!夕方寝られると、夜が遅くなって困るのよ!』と言った。


その声で、目が覚めた。


(え?それ、違うんじゃない?普通は、『ありがとう』じゃないの?)


いつもいつも、自分の都合ばかり……。


いつも何かに追われているようで、365日カリカリしていて、『はやくしなさい』が口癖。


そんな母親を、颯も好きではなかったようだ。


彼女の車が家の前の駐車場に停まっていると、決して姿を現してくれなかった。


『……ぁ、れ……?』


仁菜は足に冷たいしずくが流れていくのを感じ、立ち止まる。


(なんだろう?)


自分の足を見て、驚いた。


そこにあったのは、赤い線。