「食ってやるよ、お前は」


剣を持っていない方の手が、仁菜に伸びた。


仁菜は恐怖で、動けない。


(あたし、食べられちゃうの……?)


他には何も考えられなかった。


長い爪が、柔らかな皮膚を傷つけようとしたそのとき……。


「……っ……!」


仁菜の視界が、赤く染まった。


まるで滝のように、吹き出しては重力に負けて流れ落ちる赤。


──ガキィッ!


何かが足元に打ち付けられた音がして、やっと正気に戻る。


そこには、伝説の剣を振り下ろした颯と……片手首を切断されたカフカが、いた。


「……ニーナは俺のだ。
勝手に食うとか言ってんじゃねえよ!」


カフカの流した血よりはるかに鮮やかな赤の特攻服がひるがえり、仁菜の前に広がる。


彼女の目に見えるのは、ダサイ『喧嘩上等』の刺繍。


「颯……!」


「お、前……!」


片手を切り落とされたカフカが、灰色の瞳で颯をにらみつける。


(ダメ、ダメだ)


武器になれているみんなでもかなわなかったカフカに、颯が勝てるわけがない。


彼には、まだ片腕が残ってる……。


「許さねえ!」


声自体に魔力があるのか、カフカの怒号で空気がびりびりと震える。


案の定彼は、片手を切り落とされてももう片手の剣は落とさなかった。


それどころか、その巨大な剣を颯の頭上に振り上げる。


「颯っ!」