ヤンキー君と異世界に行く。【完】



シリウスはもう一度ムチを石から呼び出した。


どうやら、武器は破壊されても、『石』自体が損傷しないかぎり、何度でも甦るらしい。


仁菜は颯の後ろで震えながら、状況を見守るしかなかった。


(どうしよう。

あのひと早すぎて、盾をどこに出したらいいのかわからない……)


石を握りしめた手のひらが、じっとりと汗ばんでいく。


「そんなもんは利かねえ……わかんねえのか、おっさん!」


カフカの全身から、目に見えない圧力を感じる。


シリウスはムチを構えたまま、じりじりとカフカに近づいていこうとしていた。


そんな緊迫した場面で、アホヤンキーの声がした。


「ニーナ」


「なに?」


このパターンは……


まさかね。
いくらおバカでも、そう何度も、同じことしないよね……。


祈るように思った仁菜に、颯は一言。


「行ってくる」


「ちょっ……」


精霊の谷と同じパターンじゃん!


颯は仁菜を置き去りにし、王の剣を構えてカフカの背中へ走り出す。


挟みうちにするつもりだ。


仁菜は「待って」と叫びそうになった口を、慌ててふさいだ。


1対1ではかなわないかもしれないけど、あっちにはシリウスとラスがいる。


(なんとか……なる?)


シリウスがムチをしならせ、カフカの剣をもつ手首を狙う。


カフカは飛んでよける。その着地点に、颯が走る。