ヤンキー君と異世界に行く。【完】



「それは、『神の涙』!?」


シリウスが叫ぶ。


聖なる黄金の輝きを持つ、ランドミルの秘宝。


資料でしか見たことのないそれが、魔族の邪悪な手を焼こうとしている。


急いでムチをしならせ、その宝石を奪おうとしたが、遅かった。


彼らの前には、カフカが立ちはだかる。


「見間違いだろ」


しれっと言う彼に、シリウスが再びムチを振りかざす。


「おのれ……魔族ごときに、我が国の秘宝を渡してなるものか!」


──ビシィッ!


彼の意志に反応し、岩もを砕くその黒い蛇が、カフカの胸を狙う。


しかし……。


「うるせえんだよ……人間風情がっ!」


空間を、黒い線が切り裂いたように見えた。


それはカフカがあやつった剣の切っ先の残像なのだと、ぱらぱらと細切れにされて床に落ちたムチのかけらを見て、仁菜はようやく理解する。


(あ、あんなおっきな剣を、あんなに速く……!)


カフカの持つ黒い刀身の剣は、仁菜の身長くらいありそうだ。


「なに……っ」


「おっさんは寝てろよ!」


武器を失ったシリウスに、カフカが剣を構えて突っ込んでくる。


両手で天にかざした剣が、シリウスに向かって振り下ろされた。