仁菜は重たい剣を引きずり、彼らのもとへ走りかける。


『ちょっと待って』


そんな仁菜を、エルミナが止めた。


『泉に入ってきた男の子、返してほしいんでしょ?』


「はっ、そうだった!颯は!?」


『無事よ。じゃじゃーん』


エルミナが死者らしくなく明るく笑うと、水面からシャボン玉のような膜に包まれた……

二人の颯が、出てきた。


「ええっ!?」


エルミナの右手には、いつものダサヤンキーな颯。

シャボン玉の中で、こっちにむかって何かわあわあ言っている。


そして左手には……


普通のブレザーを着用し、ピンクの変なメッシュがなくなった颯がいた。

どこか表情も落ち着いていて、静かに笑っている。


『あなたが返してほしいのは、この汚い子?それとも、こっちの綺麗な子?』


エルミナの質問に、仁菜はずっこけた。


(どっかで聞いたことあるような!)


どうする?
仁菜は考える。


(……綺麗な颯、かっこいいな……)


ヤンキーでなければ、颯はイケメン。

誰もが忘れている設定を思い出す。

しかも、頭も良さそう。


(でも……)


あの日。


全部捨ててしまおうかと思ったあの日。


手を差し伸べてくれたのは、颯だった。


トト○コールで近づいてきた、ダサヤンキーな、

バカだけど正直で面倒見の良い、


颯……ただ、ひとりだけだった。


「す、すっごく名残惜しいんですが……そして不本意なんですが、

その……汚い方を返してください」


もじもじして言う仁菜。


エルミナは何故か満足したように、微笑んだ。