だけど、早くこの場を去りたかった。
ちくちくと突き刺さる視線が痛くて堪らない。
歩道を行き交う人たちの視線ではなく、速度を落として交差点を通り過ぎていく車に乗った人たちの視線。
何があったのかと言いたげな顔をして、私たちを見ている。野次馬根性というものか、皆が興味津々な顔で私たちのやり取りに注目しているのは明らかだ。
「いいです、全然気にしてませんから」
「いや、そんな訳にはいかない。僕が壊したから、きちんと責任を取らせてほしい」
全力で断ってるのに、男性は引き下がろうとしない。
「急いでいるから結構です」
ますます恥ずかしくなって、力づくで傘を押し返した。
そのまま目を逸らすように頭を下げて、背を向けて全力で歩き出す。駅を目指して一目散に。
「待って」
呼び止める声にも振り返らない。
振り返ってたまるものか。
傘を壊されたことなんて、どうでもいい。突風に吹き飛ばされて壊れたと思えば諦めもつく。
それよりも、恥ずかしくて堪らない。
しかも傘を壊したぐらいで、正直に謝る人がいるということに驚いた。普通なら軽く謝って終わりか、さっさと逃げてしまうだろう。弁償なんて口に出したりしないはず。
絶対に変な人だと思った。

