とんとんと、リホが木の扉を叩く。
「…………。」
反応は無く、リホは もう1度ノックした。それでも何の物音も しないし、人が居る気配も無い。
「……留守、みたいですね……。」
リホが困ったように眉を顰める。
「はぁ!? 何で居ないんだよっ!?」
突然ウィンはキレて、木の扉に手を掛ける。しかし やはり居ないのか、扉には鍵が掛かっていた。
「だーっ! もう めんどくせー!! 鎌鼬(かまいたち)!!」
ウィンは ぐしゃぐしゃと髪を掻いた後、右手を伸ばす。其処から黄緑色の月のような形を した物が飛び出し、木の扉を切り刻んだ。ばかっと、扉だけが地面に落ちる。
「ちょっとウィン!」
リホが慌てて叫んだ時。
「おい。」
唐突に後ろから声が掛かり、1人の青年が愛光達の後ろに すとんと降り立った。
その姿を見て、愛光は息を飲んだ。
首が隠れるくらいの長さの濃い金髪には、漆黒の髪がメッシュのように混じっており、長い前髪が、切れ長の紅い瞳に掛かっている。髪と同じ色の翼は、今迄 空を翔んでいたのだろう、大きく広げられたままだった。
何より驚いたのは、その美貌。
人形のようにシンメトリーな顔。
綺麗な その顔が弱々しく見えないのは、眉間に刻まれた深い皺と、瞳に煌めく鋭い光の所為だろう。


