ライネスの瞳から一筋、透明な雫が滑り落ちた。
それは彼の白い肌を伝い、地面を小さく濡らす。
初めて、名前を呼ばれた。
初めて、彼の涙を見た。
……こんな、残虐な願いと共に。
「……狡いよ……こんなとこで……。」
愛光の瞳から、涙が溢れる。胸を焼く痛みに耐えられず、愛光はライネスの胸に顔を埋め、肩を震わせた。
「……そうだな。」
こんな状況なのに、ライネスは苦笑する。
「……好きな奴を笑顔にすら してやれないなんて、俺、最低だ。」
「最低で良いよ、最低で良いから……っ。」
「……出来ない。御免な。」
それは、謝罪ではなく、拒絶だった。
もう生きたくないから、最期に、生贄として役に立ちたいと言う彼の願い。それを叶えるべきか逡巡し、愛光は立ち上がって、仲間を振り返った。
「……行こう。」
その言葉に、皆が息を飲む。
「アイカ……っ。」
「私は!」
愛光は、この世で最も尊い存在――イラを睨んだ。


