愛光の頭に、衝撃が走る。恐らくヴィルの蹴りが入ったのだろう。
倒れた地面が頬に当たり痛い。必死に目を開けると、霞む視界の中に、咳き込むライネスの姿が見えた。
(……良かった、無事だったんだ……。)
目の前にヴィルが立っているのに。
危険なのは自分の方なのに。
愛光は そんな事を思った。
「ほんと、人間ってのは弱ェよな。」
ヴィルの艶やかな声が聞こえる。
自分に伸ばされた手が見える。
(……ああ、私、死んじゃうのかな……?)
そんな事を思った時。
「……だから、止めろって言ってんだろ……。」
大好きな彼の、声が聞こえた。
いつの間にかライネスは立ち上がり、ヴィルと愛光の間に、両手を広げて立っていた。
自分より頭1つ分くらい高いヴィルを見上げる、ライネスの背中。何だか とても暖かくて、優しくて、安心する。
「……ライネス、其処を どけ。」
「断る。」
ライネスは即答すると、ヴィルを睨んだ。
「取引しよう、ヴィル。」
「取引、だと?」
「地界に行く。だから、こいつは殺さないでくれ。」
「!!」
ライネスの提案に、愛光とヴィルは息を飲んだ。


