予言と未来








ライネスはコロシアムの中のトイレに駆け込み、個室に入ると、その扉を ばたんと閉めた。



「…………っ。」



荒い呼吸を必死に調えながら、便器の前に蹲る。そのまま、膝を抱えて、腕に顔を埋めた。



(……落ち着け………落ち着け………。)



必死に自分に言い聞かせる。



(……誰も、俺を疑ってなんか居ない。だから……。)



リホの予想は外れている。ライネスは、彼女が言ったような事を悔やんでいる訳ではない。



誰も知らない――死んだ龍族しか知らないライネスの罪。それは、彼自身が言わなければ、決して表に出て来るものではない。



それでも、誰かが龍族を、悪魔を恨む言葉を言う度に、ライネスの胸は罪悪感で一杯に なる。胸が苦しくなって、息が出来なくなって、自分が生きていては いけないと、誰かが心の中で囁く。



いつか、言わなければ ならない事は、解っていた。



当時 幼かった自分を育ててくれた大爺様。
寂しい時、一緒に居てくれたリー。
いつも自分を心配してくれたリホ。



彼等の為にも、きちんと自分の罪に向き合わなければ。



解っていても、言いたくないと言う気持ちは高まるばかりで。



今迄 仲良くしてくれた皆との友情が、壊れてしまうのが怖い。



昔、虐められていた時のような孤独を、味わうのが怖い。



己の弱さに、吐き気すら伴う嫌悪感を覚え、ライネスは自分の髪を、くしゃっと握り締めた。