「……お休み」


野島がぽつりとそれだけ言い、襖を閉めようとした刹那、あたしはなぜか起き上がって予想外の言葉を野島の背中にぶつけた。


「なによ! 赤ちゃんじゃあるまいし、この時間でもう寝ろなんて冗談じゃないって!
野島勇人、あたしの相手をしなさいよ」


「相手?なんの?」


野島に訊き返され、あたしはハッと我に返った。


わわ~~バカバカ!何を言ってるんだ、あたしはぁ!


「相手……夜更かしに決まってるでしょ! トランプとか……百人一首とか」


あたしは飛び起きて押し入れを開けると、子どもの頃のおもちゃ箱をひっくり返した。


「百人一首に福笑いに凧……羽子板。お正月にゃ半年早くて半年遅いだろ」


呆れた顔の野島はとりあえず付き合う気らしく、戻ってきてどっかりと腰を下ろした。


「いいじゃん! あたしが遊びたいんだし。うちは個室のテレビもテレビゲームもパソコンもケータイも禁止だから、こんなアナログ的な遊びしかできないの!」


野島はひゅう、と口笛を鳴らす。


「マジ? むちゃくちゃ文明開化とは縁遠いんだな、鈴本ん家は」


「悪かったわね! 文明開化がなくて」


あたしがムカつきながらけん玉を投げると、それを受け止めた野島は慣れた手つきで遊びはじめた。


「……でも……だからこそあったかいんだな。鈴本んちは。おまえと一緒だな」