「あの……ありがとう、今日は。よかったらお茶……飲んでく?」
あたしは自分でも思いもしないことを口走ってた。
野島はすぐには返事しなくて、その『間』が不自然なまでにだいぶ開いたのだけど、あたし自身あわあわと慌ててたから、気にする余裕なんかなくて。
「今日は遠慮しとくわ。また今度な。鈴本の父ちゃんに殴られたくないし」
「え、うちの父さんそんなに暴力的じゃないよ?」
あたしは不思議に思って顔を上げてみたけど、野島の顔は陰になっててよく見えない。
「娘は大事に決まってんだろ? こんな姿見せたらどんな誤解されっかわかんないしな」
こんな姿ってどんな姿?とあたしは不思議に思えたけど、確かにあたしは雨の中にいたからびしょ濡れだし、転んだせいで制服は泥だらけ。
おまけに足首を捻ったし。
家族が知ったら絶対に追求されるわ。
だから、あたしは自分ひとりじゃ絶対にムリ、と思えた。
言い訳にしろ本当の理由を説明するにしろ、あたしひとりじゃなんとなく説得力に欠ける。
でも、野島ならなんとなくうまく言いくるめてくれそうな気がした。