もしかしたら、あたしもわかってたのかもしれない。


だから、勇人の気持ちを尊重させたのかも。


だけど、あたしは信じたかった。


奇跡という名の出来事を。


あたしは痛いくらいの土砂降りの中で、冷たい勇人の体にあたしの温もりを分けるつもりで彼と一緒に歩いた。


勇人の体から力が抜けてよろめいても、あたしが勇人の支えになって辰美島の海岸まで来た。


頑張ったあたし達の前に、くるうみの奇跡が目の前で起きる。


大干潮とともに海の水が引いてゆき、海底が露わになって山潮の海岸と繋がった。


みんなから大歓声が上がり、次々とペアで渡ってく。


「勇人、行くよ」


「ああ……行こう」


あたしは涙を堪えて勇人に声を掛けると、2人の足で第一歩を踏み出した。