むかしむかし、おおよそ千年のむかし……山潮の土地は今のように豊かではなかった。
魚を穫ろうとしても小魚が僅かしかとれず、土地は痩せている上に度重なる日照りで作物も満足に育たない。
それでも地元を束ねる領主様が横暴で、決められた量の粗(そ・税金のようなもの)を納めねば、その家の者を斬ったり、少しでも美しい女性がいれば夫や恋人がいようが召し上げたり、放蕩の限りを尽くしたり、賄賂を受け取り、気分次第で税を釣り上げたりと悪逆非道の数々を行っていた。
そして、その年も日照りでまったく雨が降らずに作物は萎れかけていた。
山潮の農民のなかに、ひとりの娘がいた。
貧しい農家だが子どもだけは多く、収入は父親が小さな畑を耕して作る作物を売り得るわずかなお金のみ。
母親は末っ子を産みすぐ亡くなったから、その娘が兄弟を母代わりに育てていた。
娘の名は瑠璃。
彼女は大変に優しく情に深く、あまり美しくはなかったから男の目には止まらなんだが、昔で言う15・6歳という婚期を逃してはいた。
昔は寿命が短かったから、女性も男性も十代前半で結婚するのは珍しくなかったのですな。



