「私も長く生きて沢山の方々のお話を伺えたから知り得ただけですが、知る限りはお話させていただきましょう」
宮司さんは凪いだ海面のように穏やかな表情でそう仰った。
「ありがとうございます。ではさっそくですが、山潮に伝わる龍神伝承について。
龍神伝説は日本各地津々浦々にそれぞれありますが、山潮だけちょっと変わっていますよね?
龍神と地元の娘が恋に落ちて子どもを授かる純愛的なお話で。
私も多少調べましたが、山潮の龍神はもともと海にいたけど、最後には山の底で自ら眠りに就いたとかいう点が興味深いです。
龍神と言えば川や海等におわします、というのが定説化していますが、なぜ山潮の龍神は山にいらしたのでしょう?」
美紀さんのお話を聴いてたら、そういえば龍ヶ峰の雪解け水が龍の涙だと言ったサチおばあちゃんの言葉を思い出した。
雪解けで龍の体が出てくるとも。
「……龍神様は自らに罰を与えなすった。そう言われています」
宮司さんが語りだした龍神伝承はこうだった。



