イルカがいた。
クマノミもいた。
珊瑚礁があった。
イソギンチャクもいた。
色とりどりの鮮やかな魚たち。
水はどこまでも透き通ってて、水面下に射し込む光芒が水底を照らし出して、きらきらと光が踊ってる。
きれい……
苦手な水の中なのに、あたしは興奮して泳ぎ回った。
手には触れられない幻想でも、美しいものは美しいよね。
それに、不思議と息が苦しくない。
(野島、ありがとう)
どうしてか、あたしは野島に心の中でお礼を言った。
なぜかこれは野島の仕業だと感じられて。
(どういたしまして)
野島の声が聴こえたように思えたけど、きっと気のせいだよね。
だけど、野島は水中でにっこり笑うと、あたしの手を取ったまま、リードするように泳ぎ回る。
泳げないあたしもいつしかそれに応えて魚みたいにスイスイ泳いでた。
野島が案内してくれたのは、水中にある岩に開いたほら穴。
その中を通り抜けると、空気がある場所に出て自然と呼吸を再開した。
不思議なのはそれだけじゃない。
七色に輝く光る岩が洞窟を満たしていたから。



