「あーーっと……あたし。そろそろ、帰ろ、かな」
それは、もう、そう言って席を立つしかない、と判断。
(しかも、おばちゃんみたいな口調)
けど。
「あ、待って、二谷。僕も」
「え?」
トレーを持ち上げたあたしを、瑠樹亜が引き留めると。
「うん、私だけ方向違うから。
またね、二谷さん」
美山さんがにこやかに手を振る。
「え、ええ?」
……まさか、まさかだけど。
今から瑠樹亜と二人きり!?
「ほら、バス停行くぞ」
「あ、あ、あ、はい」
「遅い」
「ご、ご、ごめ」
先を歩く瑠樹亜を追うあたしの足取りは、何故かフラフラだ。
「トレー、あっち。持って帰る気?」
「あ、あ、そだ」
しかも、たこ焼屋のトレーを握りしめたままだ。
トレーを返し、スタスタと歩く瑠樹亜の背中を追いかける。
予想もしなかったこの展開。
今日は瑠樹亜の色々を忘れるためにここに来たのに。
秘密の情報まで聞かされて。
その上、二人きり。
あああ。
いつもなら嬉しいはずなのに。
……うん、まあ。
少し、嬉しいけど。
(どっちだよ)