……あの日。
あたしからすり抜けた瑠樹亜は、直前で美山さんの腕を掴んだ。
二人は勢いで土手の下に転げ落ち。
命は取り留めたのだけれど。
瑠樹亜は頭を打ち。
美山さんは全身を強く打った。
あたしは通りかかった近所の人の車を停め、助けを求めると。
二人はすぐに救急車で運ばれた。
救急車に付き添いで乗り込んだあたしは、美山さんのブルーのワンピースが、じわじわと紫色に変わっていくのを見ていた。
「大丈夫だから」
と、応急処置を受けながら、瑠樹亜は言った。
「二谷、章江は大丈夫だから」
そう言う瑠樹亜の綺麗な顔も。
赤黒い血で、汚れていた。
あたしは震えが止まらなかった。
ガタガタ。
ガタガタ
あたしも足の裏を枝で切っていて。
あちこちから血が滲み出していた。
けれど、あたしの痛みなんて。
こんな、ちっぽけな痛みなんて。
耐えるにも値しないくらいなんだと思った。
手当てをしようという隊員さんの申し出を断って、一人で祈るように手を合わせていた。
神様。
美山さんを助けて。
もし、そこにいるなら。
一生分のあたしの願いを聞いて。
あの時ほど、あたしは神様を信じたことはない。

