「……ぼ、帽子……を……」



何か言わなくちゃ。
言わなくちゃ、と気持ちが焦るほどに。


なにを言ったらいいのかわからなかった。




「……何しに……」


「一人で行くのかよ」



美山さんの消え入りそうな声を。
また、瑠樹亜の声が遮る。



「僕を裏切るのか」


瑠樹亜の、揺るがない声。


……裏切る。

一体、何の話?

美山さんはもしかして。
一人でここからに逃げようとしていたのかな。



「二人で行くんじゃなかったのか」


瑠樹亜がそう言うと。

美山さんはゆっくりと視線を落とした。


美山さんの、長い、綺麗な髪が。

ふわり、と風に揺れる。



「瑠樹亜は残って」


芯のある声だった。

あたしの知らない。
美山さんの声。




「瑠樹亜は、ひよと、ここに残るの」



美山さんの、重い声が。

暗闇の中に。
どすん、と落ちる。