静まり返った木村家の中を。
無遠慮に瑠樹亜は走る。


玄関の鍵を開けて。
ガラガラっと、大きな音を立ててドアを開けた。


あたしも瑠樹亜について。
スニーカーも半端に履いたまま外へ出ると。


想像していたより。

ずっとずっと暗く重い夜が、広がっている。



「待ってよ!」


あたしの声は、瑠樹亜には届かない。

握りしめていた美山さんの帽子を。
パジャマのポケットに無理矢理突っ込んだ。

スマホは。
靴を履くときに玄関に置いてきた。



どこへ行くのか。
何をしに行くのか。

何にもわからない。


ただ。
少し前を走る瑠樹亜の白い背中を見失わないように。

あたしは必死に走った。



スニーカーか、何度も脱げそうになる。

カポンカポン、と重たくて、イライラした。


瑠樹亜の背中を闇の中に見失いそうになって。
あたしは靴を脱ぐ。

裸足で瑠樹亜を追った。


時々小石を踏んで痛かったけど。

見失ったら。
絶対に駄目だと思った。


気が付けばあたし達は。
土手沿いを走っていた。


少し外灯が増えて、瑠樹亜の姿も見付けやすい。

瑠樹亜は、何メートルも先を走っていた。


ハアッ……、ハアッ


あたしは息があがって。

もう瑠樹亜の姿も名前を呼ぶこともできない。