「……瑠樹亜くん」


昨日と同じ所に座って。
薄明かりの中で文庫本を広げている瑠樹亜に声をかける。


けど。

返事はない。



「瑠樹亜くん」


もう一回、呼んでみる。

……やっぱり、返事はない。


邪魔をするなって、ことなんだと思う。

横顔を見れば。
何となく分かる。

だけど。



「ねえ、瑠樹亜。
今日、美山さんが変だった」


一方的に話を始める。

瑠樹亜は。
聞くなら聞くし。
聞かないなら聞かないと思うけど。


あたしは。
言わなきゃ駄目だと思った。



「帽子をくれた。
お父さんの話をしてくれた。

聞いてくれてありがとうって。

……笑ってくれた」



やっぱり、瑠樹亜からの返事はない。

けれど、文庫本から。
視線は離れている。



「今にも、消えちゃいそうだった。
あのまま行かせたら、駄目だって気がした。

だけど……美山さんは……
一人で……
行っちゃった」


返事はない。
けど。

瑠樹亜があたしを見ている。




「帽子、大丈夫かな。
明日、暑くなるのに。

……美山さん。
大丈夫かな」



答えが欲しい訳じゃない。

美山さんにしか、それは分からない。


けど。
だけど。



「……あたし、何だか不安で、眠れない。

瑠樹亜……

美山さん、大丈夫かなあ……」



最後の方は。

涙で声が出なかった。