黙ったまま、二人でバスを待った。

ポケットに入っていたハンカチを瑠樹亜に差し出したけれど。
瑠樹亜はそれに応えなかった。


何か話した方がよかったのかもしれないけれど。
あたしはこの沈黙が心地よくて、黙ったままでいた。

瑠樹亜は文庫本を広げたけれど。
濡れてしまっていたので、舌打ちをしてからすぐにしまった。



バスが着くと、瑠樹亜から先に乗る。

バスはガラガラで、一番後ろの席に、少し離れて並んで座った。

あたし達の他には、おじいさんが一人と、おばあさんが二人、乗っただけだった。



「美山さんと、色々話したよ」


あたしがそう言うと、瑠樹亜は少しだけこちらに視線をよこした。

けれどすぐに、前を向いてしまう。

でも、黙れ、とか言わないから、否定された訳じゃないんだと思う。



「でもね、あたし、それでも瑠樹亜が好きだよ」



自分でもびっくりするくらい、素直な気持ちが口から出てきた。

好きだなんて簡単な言葉で、この気持ちは言い表せないけれど。
他に見合う言葉が見つからなかった。

あたしは、瑠樹亜が好き。

それだけで。

それ以下でもそれ以上でもない。

愛してる、なんて、よくわからないし。
守りたい、なんて、おこがましい。


好き、というのが精一杯で。
等身大だと思った。