雨は、止んだ。


行こうか、と先に声をかけたのは美山さん。
そうだね、と頷いて席を立つと、足が震えている。

……情けないな、あたし。

想像以上に辛かった瑠樹亜の過去に。
ショックを受けてる。


カラン。

喫茶店のドアを開けると、むん、とした雨の匂いが立ち込めていた。



「じゃあね、ひよ。
また学校で。

明日から、登校するつもりだから」


そう言ってあたしとは違う方向に歩き出した美山さんの背中を、手を振りながら黙って見送る。


修学旅行まで、あと、2日。

二人の逃避行まで、あと、4日。
修学旅行の最終日。
二人はこの世界から、逃げ出すつもりなんだ。



あたしは一人、俯き歩きながらバス停に向かう。

色々考えたけれど、どれもとりとめがなくて。
全然まとまらない。


ただ、そう、ただ。

今より、ほんの少しでも。
瑠樹亜が幸せになってくれれば、と思う。


ため息を吐いて顔を上げると、仁成病院前のバス停が見えた。

そこに立つ人影に、あたしの心臓がどくん、と敏感に反応する。



「……瑠樹亜」


か細い人影か、ゆっくりとこちらを見る。

感情のない瞳が。
真っ直ぐにあたしを見つめていた。