「ん、ありがとう。
もう大丈夫」


美山さんが精一杯笑うから、あたしの胸もジンとしてしまう。

この、目の前の小さな女の子は、あたしが想像しているよりもずっと、重いものを抱えているのかもしれない。
その表情を見て、なんとなく、そう思った。



「瑠樹亜も、ありがと。
もう、大丈夫だから」


「ん」


「……え。瑠樹亜くん、帰るの?」


こちらに背中を向ける瑠樹亜に問うと、代わりに美山さんが答えてくれた。


「ひよ、ごめんね。
今日は私から、ひよに、大事な話があるから」


「でも……、美山さん、まだ貧血があるって……」


美山さんに何かあったら、あたし一人じゃ自信がない。
瑠樹亜がいてくれないと。
どうしたらいいかわからないのに。


「大丈夫。
調子はいいし、いざとなったらマスターがいてくれるから」


「……マスター?」


あたしがカウンターの中に視線を泳がせると、さっきまてグラスを拭いていたおじいさんが、じっとこっちを見ている。
それから、「大丈夫だよ」と言うように、こくんと小さく頷いた。

それを見届けるようにして、瑠樹亜も喫茶店を出て行く。

カラン、と、またドアの鈴が鳴った。