瑠樹亜が無言のままドアを開けた喫茶店は、すごく昔からありそうな、レンガ造りの建物だった。

カラン、と音がして、あたしも瑠樹亜に続いて中に入る。


コーヒーの匂い、かな。
家でコーヒーを飲むのはお父さんだけだから、時々だけ嗅ぐことのある独特の匂いが漂っている。

苦味のある匂い。

カウンターの奥では人のよさそうなおじいさんが一人、グラスを拭いている。
ここのお店の人かな。
品のあるおじいさん。

お客さんはカウンターに一人。
手前の席に二人。
みんな、新聞を読んだり雑誌を読んだりしている。


一番奥の席に、帽子をかぶった美山さんの姿があった。
お花の飾りのついた、つばのある帽子。
よく似合っている。



「ひよ、来てくれて、ありがとう」


そう言った美山さんの表情は今にも泣きそうだった。

少し痩せたみたい。
顔色も悪い。


「大丈夫なの?」


あたしは思わず、そんなことを言ってしまった。

ちょっとだけ、しまった、と思う。
お父さんのことは、あたしは知らないことになっているのかな。