「だけどまだ貧血があるから、病院から離れるのはあまりよくない。
この近くに、僕らの行きつけの喫茶店がある」


……行き付け。
瑠樹亜と、美山さんの。


「そこなら安心だから」


……安心。

瑠樹亜をの言葉の端々に、優しい響きがある。

瑠樹亜が美山さんを心配しているのがよく分かる。
大切なんだ。
瑠樹亜もまた、美山さんが。

そう思ったら、胸がチクチクしてしょうがなかった。



「大事なんだね」


「は?」


「瑠樹亜くんは、美山さんが大事なんだ」


「……」


瑠樹亜からの返事はない。
それは、肯定だと受け止めていいはずだった。


黙っている華奢な後ろ姿を。
少し後ろからそっと見詰める。


……ねえ、瑠樹亜。

なら、あたしは?
あたしのことはどうなのかな。

チョコレートをもらった日から、少しずつ近付いて行った。
しおり係になってからは、ぐんと近付いた。

だけどやっぱり。
あたしは瑠樹亜にとって、美山さん以外のただの何ものかなの?
まだ特別な名前を持たない、その他大勢の中の一人なの?


恐くて言葉にできない。
今以上を望んだら、一気に壊れてしまいそうで。