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あまりに静かな時は、本当に、シーンという音がするんだな……

そんなことをぼんやりと思った。


ここでは、瑠樹亜が文庫本を捲る音だけがする。

パラリ。
シュッ……パラリ。
心のない、乾いた音。

本当に遠くの方で、野球部が練習している音もする。

カキーン。
金属バットの音が微かに聞こえる。


そんな沈黙を破ったのは。
感情の読み取れない瑠樹亜の声。



「頭を殴ったんだよ。
頭なら、傷が分かりにくいと思ったんだろう。

殴られた勢いで、章江はテーブルに頭を打った。
幸い脳に以上はなかったみたいだけど、傷口が大きかった。

親父は慌てて自分の病院に入院させたよ。
何針か縫ったみたいだけど、今は落ち着いてるみたいだ」



淡々と紡ぎ出される言葉たち。

そのどれもが。
悲しすぎて現実味を伴わない。


……どうして瑠樹亜は。
そんな辛いことを平気な顔で言うのだろう。

まるで小説を朗読するみたいに。
まるで作り話をするみたいに。


瑠樹亜が話していることは。
遠い遠い、どこかの国のお話だ。

あたしの本能が、そう思い込むように命令している。